移民局 2020年2月24日 「公共の負担(public charge)による入国拒否」に関わる改正規則施行へ
「公共の負担(public charge)による入国拒否」に関わるルールを大幅変更した改正規則が2020年2月24日から施行されます(ただし、ビザ申請者がイリノイ州に住んでいる場合を除きます)。 2月21日の連邦最高裁判決により、イリノイ州に住む申請者に対しても2月24日から適用されることになりました。
この改正規則は2020年2月24日以降に移民局に行う申請に適用されるもので、特にアドジャストメント申請(adjustment of status 米国滞在中に学生ビザや就労ビザなどの非移民ビザから移民ビザ〔永住権・グリーンカード〕への切り替えを行うための申請)への影響は大きく、移民ビザの発給数が今後大幅に減る可能性も指摘されています。
【注意】アメリカ大使館・領事館に提出されるビザ申請には今回の改正規則は適用されません。管轄官庁である国務省が同様なルールを施行する予定です。(本稿執筆時点、施行日はまだ明らかになっていません。) 国務省の改正規則も2020年2月24日から施行されることになりました。
I. 「公共の負担(public charge)」による入国拒否事由とは?
米国移民法では、外国人が米国に入国後に米国の公共の負担(public charge) となるおそれがあると判断された場合、入国拒否となります(第212条(a)(4)(A))(ただし、この規定の適用がそもそも免除されている外国人[例 難民等]、あるいは公共の負担となるおそれがあると判断されたが免責される外国人もいます)。
これが「公共の負担(public charge)による入国拒否」と呼ばれるものです。法律上、移民局等の関連当局は、ビザ(非移民ビザ・移民ビザ)を申請する外国人がこの入国拒否事由に該当するか否かを判断するにあたり、少なくとも申請者の年齢、健康状態、家族状況(世帯規模)、本人の財産状況、学歴・スキルといった諸事情を考慮しなければならないとされ、いわゆる「諸事情の総合判断(totality of the circumstances)」テストが採用されています(第212条(a)(4)(B)(i))。
今回の改正規則は、外国人が米国の「公共の負担」となるおそれがあるか否かを移民局が判断するための基準を大幅に改正するもので、米国市民の利益を守るため、米国への入国や滞在・永住を望む外国人に自立と自己責任を強く求める現政権の移民政策の一環と位置付けられます。
II. 改正規則を巡るこれまでの経緯
この改正規則は2019年10月15日から施行される予定でしたが、ニューヨーク州や移民保護団体等がこの規則は違憲、違法だとして起こした訴訟の中でニューヨーク州南部地区連邦地裁が同年10月11日全米に効力をもつ仮差止命令(本案について最終的な判決が出るまで、現状維持のための仮の処分として、規則施行を差し止める命令)を発令したため、10月15日からの施行は実現しませんでした。
その後、今年に入った1月27日、連邦最高裁判所が連邦地裁の仮差止命令を停止する判決を5対4で下し、当面施行を認める判断を示したため、1月30日移民局は同規則を2月24日から施行する旨を明らかにしました。ただしイリノイ州については、別の同様な訴訟の中で発令された仮差止命令が依然有効であるため(本稿執筆時点)、2月24日からの施行の対象となりません。 2月21日の連邦最高裁判決により、イリノイ州に住む申請者に対しても2月24日から改正規則が適用されることになりました。
III. 旧ルールと新ルールの違い
A. 旧ルール(移民局1999年ガイダンス)
(1)「公共の負担(public charge)」 の定義
以下のいずれかに該当する場合で、「最低限度の生活をするため主に政府に依存することになる可能性のある個人」と定義されています。
① 生活扶助のための現金給付(SSI、TANF またはGeneral Assistance)を受給した場合
- SSI Supplementary Security Income (補足的所得補償)
- TANF Temporary Assistance for Needy Families (貧困家庭一時扶助)
- General Assistance 連邦・州・自治体が独自に運営するその他一般扶助(地域により呼び方が異なる可能性あり)
② 政府の費用負担で長期療養施設に入院した場合(例 低所得者のための公的医療保険メディケイドを利用して、養護施設や精神衛生施設等の長期療養施設に入院した場合)
(2)移民局における諸事情の総合判断テストの適用状況
アドジャストメント申請の場合、これまで移民局はスポンサーによる扶養宣誓供述書(Affidavit of Support)に記載された内容を重点的に審査し、申請者の年齢等の諸事情を別途審査してきませんでした。今回の改正規則により、こうした状況が改められ、申請者側の諸事情が今まで以上に詳しく審査されることになります(下記B(3)参照)。
【比較】 アメリカ大使館・領事館に提出された移民ビザ申請については、国務省は諸事情の総合判断テストを移民局より厳格に適用し、扶養宣誓供述書のみでは十分とせず、申請者側の諸事情も考慮のうえで判断を下しています。
B.改正規則(新ルール)の内容
(1)「公共の負担(public charge)」 の定義
「36か月の間に計12カ月を超える期間にわたって以下①から⑥のいずれかの公的給付(以下「指定公的給付」)を受ける外国人」と定義されています。旧ルールより広い範囲の公的給付が審査の対象となります。
【注意】
- 1か月に2種類の指定公的給付を受けた場合、2カ月分の受給があったものと扱われます。
- 2020年2月24日より前に行った指定公的給付の支給申請、または同日より前に実際に受給していた指定公的給付は審査対象外となります(ただし、旧ルールにおいて審査対象とされていた2種類の公的給付〔現金給付・政府の費用負担による長期療養施設入院〕の支給申請・受給を除く)。
【指定公的給付】
① 生活扶助のための現金給付(SSI、TANF、General Assistance)
② Supplemental Nutrition Assistance Program(補充的栄養支援プログラム、いわゆるフードスタンプ)
③ Section 8 Housing Assistance under the Housing Choice Voucher Program(住宅選択バウチャープログラムの下でのセクション8住宅補助)
④ Section 8 Project-Based Rental Assistance (セクション8プロジェクトベース賃借補助)
⑤ Federal Medicaid(連邦政府の資金で運営されているメディケイド)ただし、救急治療の場合、21歳未満の人が利用した場合、妊婦が妊娠期間中から出産後60日までの間に利用した場合などを除く。
⑥ Public Housing under Section 9 of the U.S. Housing Act of 1937(1937年連邦住宅法セクション9に基づく公営住宅)
(2)「公共の負担となるおそれがある」の解釈
「公共の負担となるおそれがある」とは、外国人に関わる諸事情を総合考慮した結果、将来「公共の負担」となる確率の方がそうならない確率よりも高い場合をいうとしています。つまり、公共の負担による入国拒否事由の該当性を判断するにあたっては、36か月の間に計12カ月を超える期間にわたり指定公的給付を受給する確率の方がそうならない確率よりも高いか否かが審査されるということです。
(3)諸事情の総合判断テストを行う上で考慮される7つの要素
移民局は以下の7つの要素を総合考慮して判断するとしています。
① Age (申請者の年齢)
- 18歳から定年になるまでの年齢であるかを含め、申請者の就労能力が審査されます。
② Health (申請者の健康状態)
- 日常生活や就労に影響を及ぼす健康状態であるか否か等が審査されます。
- これまで提出が義務付けられていた健康診断書が今後も必要です。
③ Family status (世帯規模) 申請者の世帯人数を確定します。
④ Assets, resources and financial status (申請者の財産状況)
- 申請者の世帯には連邦政府の定める法定貧困レベル(Federal Poverty Level)の125%以上(ビザのスポンサーがアメリカ軍人の場合は100%)の所得・資産等があるか。
- 申請者の世帯には申請者にかかる医療費(合理的に見て発生することが予見できる範囲の医療費)を支払うだけの資産・資金があるか(医療保険に加入しているかなどが審査されます)。
- 申請者に金融負債があるか(米国のクレジット・スコアが審査されます)。
- 指定公的給付について、2020年2月24日以降、申請者は(i)支給申請をしたことがあるか、(ii)受給資格を認められたことがあるか、または(iii)実際に受給したことがあるかが審査されます。
⑤ Education and skills (申請者の学歴・スキル)
- 職歴・学歴・スキル・資格
- アメリカでの過去3年分の確定申告(タックスリターン)の写しの提出が求められています。
- 英語力
⑥ Prospective immigration status and expected period of admission(希望在留資格と予定滞在期間)
- アドジャストメント申請をしているのか、非移民として入国を申請しているのか、それとも移民として入国を申請しているのか。
- 非移民としての入国申請の場合、非移民ビザのタイプと予定滞在期間。
⑦ Affidavit of Support (扶養宣誓供述書)
- これまでと同様、アドジャストメント申請の場合は移民ビザのスポンサーによる扶養宣誓供述書の提出が求められます。
- スポンサーが申請者に対し法律で要求されている経済的サポートを実際に提供できるのかが審査されます。
- 審査にあたり、スポンサーの財産状況、スポンサーと申請者の関係、スポンサーは申請者と同居するのか否か、これまでスポンサーが他の申請者のために扶養宣誓供述書を提出したことがあるか等が審査されます。
アドジャストメント申請の場合、今後申請者は、スポンサーによる扶養宣誓供述書に加え、新たに導入される書式I‐944(Declaration of Self-Sufficiency)を必要添付書類と併せて移民局に提出しなければならなくなります。これは、アドジャストメント申請の審査の焦点が今後スポンサーから申請者本人に移ることを意味しています。
※ アメリカ大使館・領事館で移民ビザ手続を行なう場合、新たに導入される書式DS-5540(Public Charge Questionnaire)の提出が求められます。
また改正規則には、かなり不利に働く要素・かなり有利に働く要素がそれぞれ挙げられています。
〔かなり不利に働く要素〕
- フルタイムの学生ではなく、就労許可をもらっているにもかかわらず、現在仕事をしていないうえ、過去最近働いた形跡も今後仕事につく見通しもない場合。
- 申請日前36か月以内(申請日から遡って36か月前の日から申請日まで)の間に計12カ月を超える期間にわたり指定公的給付を受給している、または受給資格が認められている場合。ただし、2020年2月24日より前に受給した、または受給資格が認められた指定公的給付についてはカウントされません。
- 長期治療・入院が必要になる可能性があると診断されている場合、または普通に日常生活を送る、学校に行くまたは働くことができない症状だと診断されている場合のいずれかに該当し、かつ医療保険に入っておらず、民間の医療保険に入る見込みも治療費を支払う資金もない場合。
〔かなり有利に働く要素〕
- 申請者の世帯には連邦政府の定める法定貧困レベルの250%以上の所得・資産・資金または金銭的支援がある場合
- 就労許可をもらって働いている外国人の年収が法定貧困レベルの250%以上である場合
- 外国人が民間の医療保険に加入している場合(予定滞在期間に適した保険であること)。ただし、医療保険制度改革法(オバマケア)に基づき助成金(プレミアム・タックス・クレジット)を受け取って加入した医療保険を除く。
(4)非移民ビザの延長申請・非移民ビザから他の非移民ビザへの変更申請に適用される「公的給付条件」
公共の負担(public charge)による入国拒否事由は、一部例外を除き、アメリカ大使館・領事館に行う非移民ビザ(F-1、H1-Bなど)の申請を行う外国人にも適用されますが、移民局に非移民ビザの延長申請(EOS)または他の非移民ビザへの変更申請(COS)を行う外国人には適用されないことになっています。
しかし、今回の改正規則では、非移民ビザ保持者の米国滞在中の経済的自立を確保するため、2020年2月24日以降に移民局にEOSまたはCOS申請を行う外国人は、一部例外を除き、下記「公的給付条件」を満たしていることを証明しなければならなくなります(ただし、この証明にあたり、I-944書式の提出は求められていません)。
【公的給付条件】 延長しようとしている又は変更前の非移民ビザを取得してから36か月の間に計12カ月を超える期間にわたって指定公的給付を受給していないこと。
なお、2020年2月24日以降に提出されたEOSまたはCOS申請では、同日より前に申請者が受給した指定公的給付はカウントされません。
IV. まとめ
今回の改正規則は、上述の通り、移民局に行う申請のうち、とりわけアドジャストメント申請に大きな影響を及ぼすものです。今後、申請者側の財産状況、学歴・職歴等の様々な事情が広範囲にわたり審査されることになり、申請にあたっては、従来からある扶養宣誓供述書に加えて、19ページにも及ぶI-944書式とこれまで以上に多くの証明書類の提出が義務付けられることになります。
※ アメリカ大使館・領事館で移民ビザ手続を行なう場合、新たに導入される書式DS-5540 (Public Charge Questionnaire) の提出が求められます。